歯周病が進行すると、プラークによる炎症で歯茎や歯槽骨を支える「歯周組織」が次々に破壊されていきます。歯茎を切開し歯根部を清掃する「フラップ手術」を行い、奥深くに存在している歯石やプラークを除去することで、歯茎周辺の炎症改善は可能です。

ですがひとたび溶けた歯槽骨は元に戻せない為、再生するための治療が必要になりるでしょう。

2015年12月「リグロス(一般名トラフェルミン)」という歯周組織再生剤が販売されました。現在では、このリグロスを使った再生療法が、健康保険を利用して受けられる形になっています。

治療は局部麻酔を使った1時間ほどの外科手術です。フラップ手術の手順で歯茎を切開して、露出した歯根表面を清掃した上で、歯槽骨が溶けている部分にリグロスを塗布します。

その後、歯茎を元通りに縫合し、9か月ほど待った後X線で骨の再生を確認します。リグロスの主成分は人間由来のたんぱく質を人工的に生産した「FGF-2(塩基性線維芽細胞増殖因子)」となっています。

身体の中で傷を治す時などに放出される成長因子であり、1990年代頃から再生を促すこの作用が着目され始めました。当初は皮膚の治りにくい傷に対する薬として開発が進んでいましたが、骨の再生にも効果があるという事が分かり、歯周組織の再生治療用に実用化する研究が進められていったのです。

細胞が増えるのをサポートするだけでなく、盛んに新しい血管を作り、破壊された歯周組織へと栄養を送り込みより早く再生される力もあります。

しかしながら、日本国内で前例がなかった事から、安全性と有効性を確認する為に10年以上を費やす事となりました。このリグロスを用いた再生療法は健康保険が適用となりますので、薬剤自体の費用は3割負担の人で7~8千円ほどとなります。

除菌の大切さ

歯を失う原因の第1位、2位を占めるのは歯周病と虫歯です。種類は異なるものの、いずれにしても悪玉の細菌感染が原因です。歯に付着したプラークの中にいる悪玉菌は、毎日のブラッシングなどで物理的に徐々すれば減量は可能です。

しかし、発症予防につながるくらいまで大きく減らすというのは難しいものです。そこで殺菌剤を用いて悪玉菌数を減らす「3DSセラピー」という口腔内除去が2000年に開発されました。

「悪玉菌を殺そうとして殺菌剤を口に含むと有益な常在菌まで死滅させてしまう。悪玉菌というのは歯の表面に沢山いるという性質から、そこだけに攻撃を仕掛ける事で常在菌へのダメージを抑えつつ、効果的な除菌ができるのではないか」という考えが開発のきっかけだったようです。

3DSセラピーは、一人ひとりの歯型に併せてマウスピースのようなシリコン製のトレーを作製します。トレーの内側に殺菌剤を塗り、5分ほど装着します。すると、歯の表面は勿論、歯と歯茎の間にも殺菌剤がしみわたります。

一方、薬剤に触れていない所にいる常在菌まで殺してしまう事はありません。現在では、200以上の大学病院や歯科医院でこの治療が導入されるようになっています。

歯列が安定する12歳以上になれば、トレーの作成が可能です。中高齢者でも遅すぎるという事はなく、虫歯や歯周病の予防は勿論すでに発症している場合にも治療の効果の上乗せが期待できます。

また、悪玉菌は口の中の傷口から血液を通して全身へと運ばれます。「菌原性菌血症」と呼ばれる病態です。近年この病態が脳梗塞や認知症の原因になる事がわかってきました。

つまり、3DSセラピーは、菌原性菌血症を防ぐ事だけでなくその先の病気の予防にも繋がっているのです。ただし3DSセラピーはブラッシングにとって代わるものではなく、デンタルフロスや歯冠ブラシ・マウスウォッシュのような毎日のケアにプラスして続けていくものという認識は念頭に置いておいていただきたいところです。1日5分のケアが一生涯の健康を維持していく事に繋がるのです。

歯の移植

矯正で歯列に収まらなくなった歯や20歳前後で生えてくる親知らずは、不要な歯として抜かれます。

広島大学では、この抜いた不要な歯を冷凍保存し、その本人が将来虫歯や外傷などによって他の歯を失った時に移植するという「ティースバンク」を開発しました。

最大の特徴は、CAS(CEELS ALIVE SYSTEM)という特殊な冷凍技術だと言えます。歯根膜をつけたまま保存や移植が出来るという所が強みでしょう。

歯根膜は歯根とそれを支える歯槽骨の間にある薄い膜であり、クッションの役割を担っています。入歯や歯科インプラントでは、歯根膜特有のしなやかな噛み心地を再現する事は難しいのです。

全国に提携歯科医院があり、抜歯した歯や24時間以内にクール便で広島大学へと運ばれます。そしてマイナス150度で保管し、必要となったら歯科医院に再度届けられ、患者さんへ移植されるという仕組みです。

移植後はおおよそ1~3か月で定着し、噛めるようになります。移植するのは根の部分だけで、その上の歯冠部は形成する為、多少形が合っていなくても適用できるケースもあるようです。

費用については、歯の検査・輸送・20年の保管で13万円、保管期間に関しては延長する事も可能となっています。ここに移植や形成などの費用が別途かかってくる事になるでしょう。